五日目 Good bye , Malta !!

>>Scotts Super Marcket

 今日はいよいよ最終日。午後1時に迎えの車が来るまで、お土産の買い物と散歩に出ることにした。何度か港の近くのタワーというスーパーには足を運んだが、今日はスコッツという店へ。タワーは4階建てで販売面積が広いが、こちらの方が生鮮食料品とデリは圧倒的に充実している。途中、親切なおばあちゃんが「あなたドコ行くの?」と付いてきてくれて、最後までマルタの優しさを感じた旅だった。

◆では、買ったお土産イッキに紹介。(他の店で買ったのもあり)

 左はツナのスプレッド。ホテルの朝食で大きなボウルにどっさり出ていた。実はマルタはマグロの一大漁場で、その殆どが日本に輸出されている。味はサワークリームとハーブ風味。
 右はバニラやカラメルの味がする、絶品ゴゾハニー。これは小さなポーションだけれど、ちゃんと瓶詰めも買ってきた。最高のお味!


 左の2点は、乾燥ポルチーニと固形のグレイヴィーソース。こういうものって、日本で買うととても高いけれど、さすがこちらでは生活価格。
 特にポルチーニは1500円相当と思われる量が350円程度。これなら、パスタやリゾットにも気前よく使える。グレイヴィーはクノールの域を出ないが、家庭料理には十分な風味だった。

 こちらもクノール製品。私が旅に出ると必ず大量に買って帰るインスタントスープの類だ。こういうものは土地柄が出るので、同じクノールでも種類が大きく違う。
 マルタのものはMade in Itaryだったので、たぶんシチリアでも同じものが売ってあるだろう。今回ゲットした中で珍しいのは、オックステール、そしてコリアンダー。前者は想像通りの味だったが、コリアンダーはかなり個性的。肉料理のソースとして、ポテトと一緒にいただくのが良いようなパンチの効いた味だった。



 もうひとつ、海外に行くと必ず買い込む歯磨きやマウスウォッシュ。日本と比べてオーラルハイジーンが徹底されている欧米では、歯磨きコーナーの気合が違う。今回は10種ほどゲット。
 右はライムストーンにマルタクロスが彫られた小物入れ。使ううちはちみつ色になるそうだ。

 こちらもマルタ記念品。博物館のショップで買ったマルタ騎士団のボールペン。甲冑を着ている騎士が棒状になっているというキモさが良い(笑)持つと重いし、ほとんどインクも出ないが、文具好きなので見つけるとつい買ってしまう。
 右はイムディーナの路地裏のガラス工房で見つけた、ワインボトルのストッパー。独特のイムディーナグラスは、どこかベネチアのガラス製品にも似た雰囲気がある。母にも色違いをプレゼントしたのだが、非常に喜んでくれた。指輪やペンダントトップなども、欲しかったが予算が…(笑)

>>Sakura lounge at Preluna hotel


 さて、買い物を終えた後は、最後にスリーマの海岸線を散歩。何度となく通ったこのタワーロード。時間によって全く海の表情が違うので、そのたびに楽しませてもらった。ベンチに座り、ジェラートでひと息。本当にきれいな海と青空だ。

 近所をぶらぶら歩いていたら、教会があるのを発見した。その向かいには小さな雑貨屋さんや揚げパン屋さんなど…

 もっと近隣を散策しとくんだったと思っても、すでに出発間近。ヨーロッパは表通りより裏通りのほうが、実は素敵が隠れているのかもしれない。




 ランチは、プレルナホテルの一階にある「サクラ・ラウンジ」に行ってみることにした。ここは日本の職人を雇っているのが売り物みたいで、ビルの壁にでかでかと「SUSHI!」みたいな恥ずかしいサインボードを出しているので、本当は同じホテル内のイタリアンに行こうと思っていた。しかしそちらが準備中という事で、仕方なく。

 ところが入ってメニューを見たら、けっこうまともなイタリアンのカフェ飯があれこれ。デリのショーケースからも選べるし、もちろん「よかったらスーシーいかが」もある(笑)

 私がオーダーしたのは、ホップリーフという地ビールと、アランチーニ(ライスコロッケ)。下手に頼むとまたとんでもない量が出てくると思って控えたが、1個で正解。見ての通り、巨大なブツが登場した。値段はわずか2ユーロ程度だが、洋ナシの形をしているのが何ともお洒落!

 さて、お味は…とナイフを入れると、ザクッと音がするほどクリスピー。薄味のカレー風味のライスの真ん中でモツァレラがとろけ、ハーブの香りがふわり。予想外の美味しさに、すっかりご機嫌になってしまった。

 さらに、ホップリーフもチスクより焙煎香が強く、味もしっかりしてなかなか美味しい。苦味も強いが、かえってそれが私好みで美味しくランチをいただいた。もちろん、海が見える席に陣取ったのも、旨みを増幅するスパイスになったことは言うまでもない。

 ビールとあわせてチップ込みで5ユーロのカジュアルランチ、堪能したらいざ空港へ。


  帰りのマルタトランスファーは、じいちゃんドライバーが空港まで送ってくれた。普通のワゴンで貸切だったので、途中色々と話をしたが「俺は生まれてこの島から出た事がないよ。日本なんて場所もよくわからない」と言っていたのが印象的だった。

 飛び立つ翼越しに、最後にマルタにありがとうを言った。はちみつ色の建物と暖かい人たち、そして美しい海と空に、いつかまた会いに戻って来たいと思える、素晴らしい旅だった。

Fin

四日目 世界遺産の街へ(新都ヴァレッタ・後編)

>>The Armoury and Grand Master's Palace
 一息ついて向かったのが、大聖堂の先にある「騎士団長の館」(Grand Master's Palace)。ここはマルタ島が騎士団に統治されて以来、グランドマスター(騎士団長)が政治の指揮を執った、いわばマルタの首相官邸みたいな施設であり、数々の重要な対談や会議も、ここで行われてきた。

 もともとマルタの騎士団は、聖ヨハネ騎士団としてエルサレムの修道会から興ったもので、それがオスマントルコの勢力から逃れて地中海を渡り、シチリア王から鷹一匹を代償に、マルタ島を与えられたという(ずいぶん省略しているが)歴史がある。

 そう言うと、マルタの島民にとって侵略者のように聞こえるかもしれないが、実際はそれまで海賊や外国からの侵攻に怯えていた島で、搾取ではなく統治を行った騎士団は、今も大変尊敬されている。

 きっと国民にとっては、外部から軍隊を引き入れたみたいなものだったのだろう。現在の首都「ヴァレッタ」も、初代団長「ジャン・ド・ヴァレット」にちなんで名がつけられたという。


 騎士団長の館は、そんな歴史がぎっしり詰まった展示施設。入場料は10ユーロと若干お高いが、邸宅と武器庫(こっちがすごい)共通のチケットなので、たっぷり見学できて充実感がある。特に、私は何を隠そう武器マニアで、ずらりと並んだ古武器や防具にゾクゾクしながら、エキサイティングなひと時を過ごした。

 まあ、広い体育館みたいな部屋に、あるわあるわ。甲冑から大砲からサーベルから、ありとあらゆる武器が、素晴らしい保存状態で並んでいること!











 馬の兜や具足ならぬ鉄ブーツなどという、レア防具もあったりして、好きな人にはたまらない世界。また、手を伸ばせば触れる所に、囲いなしで大砲が置いてある。その数、優に20門は超えていたはず。さらには、鎖帷子のようなアンダーシャツもあり、考えることは世界共通かと納得。

 しかし何より驚いたのは、その手入れの良さ。サーベルやフルーレは、刃が立ったままピカピカに研いであり、今すぐにでも戦闘体勢に入れるコンディション。ステンレスがない時代の鉄武器が、ここまで保存されているのを見ると、ヨーロッパの湿度の低さや、石造建築の恒温性を改めて羨ましく思ってしまう。


>>Upper Barracca Gardens

 騎士団長の館を出てリパブリック通りを引き返し、いよいよ午後のメインである旧都イムディーナへ。その前に、バス乗り場へのルートをちょっと回り道して、「Upper Barracca Gardens(アッパーバラッカガーデン)」へ立ち寄り。

 ここは、バス乗り場の南東にある公園で、ヴァレッタで最高と言われる海の眺めが楽しめる。地元では夜のデートコースとしてもおなじみなんだとか。

 途中で念願のジェラートを買って歩きながら公園内へ。今日は日差しも強いし、冷たいものが美味しい。

 とは言え、着ているものは長袖。こっちの気候はうっかりすると、風と日照の具合で真夏でも震えるほど。ヨーロッパ人を真似してキャミ一枚で出歩くと、うっかり風邪をひいてしまう事もあるので上着は必携。

 写真上の馬車が並ぶ入り口を抜け、公園の中へ入るとまずは植え込みの遊歩道があり、次に少し広々とした広場に出る。やがてアーチ型の柱廊が見えて来たら、その先には海が広がる。ヴァレッタの対岸、今朝船で渡ってきたスリーマや、はるか向こうにセント・ジュリアンも。まさに絶景とはこのこと。





 その現地の空気を楽しんでいただきたく、パノラマの動画をアップ。手回しのオルゴールから流れてくる、いかにもヨーロッパ的な音楽も、旅の風情として感じていただければ幸いだ。


>>Mdina-1

 さて、いよいよマルタバスに乗って、旧都「Mdina(イムディーナ)」へ。朝、見かけた黄色いマルタバスが、ヴァレッタ遷都以前、この国の都であったイムディーナへ向かう唯一の公共交通機関だ。

 ちなみにマルタバスは、なんとトトロに出てきた猫バスのモデル。今回の旅では初トライなので、やや緊張して乗り込んだが、じーちゃんやおばちゃんが助けてくれて、バス停の看板さえないのに、難なく目的地に到着。(ただし手前に「ようこそイムディーナへ」の英語サインボードあり)

 さて、この旧都も新都ヴァレッタと同じく、外敵の襲来に備えて城塞都市であることは言わずもがな。降りてガイドブックを頼りに、この橋を渡って城壁内に入ろうとしたそのとき、今回の旅でいちばんの椿事が起こった。

 そう、なーんとナンパされたのである。この私がだ(笑)
 とは言っても、年のころなら還暦過ぎのプチおじいちゃま。

「こんにちは。ジョセフといいます。地元の人間なのですが、よかったら観光案内させてください」

「ガイド料金はお支払いできませんよ」

「とんでもない、私がお供させていただきたいだけです」

 帽子を取ってお話する英国式のマナーから、おそらく客引きや悪質なナンパではなさそうだと判断したので、理由を聞いてみると、やはり仕事を引退して暇なので自主的にボランティアをしているらしい。リタイアが早いヨーロッパでは、こういう人生を持て余している方々は多いのだろう。

 ただし「若い女性だけ。私もそこまで親切じゃない」なのだそうだ。日本で言えば、私など若くはないのだが、こっちではお嬢さんで通用するらしい。それに気をよくしてガイドをお願いしたのだが、これが脱線の元だった…

 なにしろジョセフ氏、「自分が説明するからガイドブックをしまえ」、と日本語の解説を読ませてくれないし、決めていたルートも「そこは見ても面白くないよ」と、マルタ人から見たおすすめコースを強引にすすめていく。よって、初めてイムディーナを訪れた外国人には、いささか調子の狂う観光になってしまった。

 しかし最後に「じゃあ、ここへどうぞ」と連れてこられたのが、「カフェ・フォンタネッラ」。ここはもともと来ようと思っていたので、好都合だった。ただ、その前にゲートの近くにある「リストランテ・イムディーナ」でランチを取る予定だったので、スケジュールは大狂い。この時、時刻はすでに2時。おなかペコペコのまま、お茶に突撃する羽目に。

 「カフェ・フォンタネッラ」はマルタの数少ないガイドブックにも登場する、観光地の人気店。城砦の中の高台から景色を眺めつつ、お茶が飲めるという趣向だ。石造りの入り口から入ると一階席もあるが、左手の階段から上がった二階席が眺めがいい。

 客は8割がイタリア人観光客のようだ。さて何を頼むかという段になり、ジョセフおじさんおすすめの「マルティーズコーヒー」にトライしてみることに。

 ←これが、その「マルティーズ(マルタ風)コーヒー」。「アニセット(アニス酒)は大丈夫?」と聞かれただけあって、けっこうアルコールが効いている。コーヒーというよりはカクテルの一種だと思ったほうがいい。見た目を裏切る暖かいコーヒー+大量の生クリーム。味ははっきり言って「まずい!」の一言だが(笑)観光の記念に試してみるのも一興だろう。


  カフェでは、ジョセフさんから色々と楽しい話が聞けた。マルタの産業のことや歴史のこと。彼は現役の頃は政府の機関に勤めていたそうで、EU加盟とは言っても、イギリスの属国に近いマルタの発展の遅さに「うんざりするよ」と苦笑いしていた。

 観光客から見ると、その素朴さがマルタの魅力なのだが、住んでる人には不便も多いのだろう。お気楽に観光に来ているだけでは感じられない、居住者の意見を聞けただけでも、ジョセフさんと話ができて良かった。最後までジェントルマンのジョセフさんに、ありがたくご馳走になり、この後はさっき行きそこなった聖堂や街のあちこちを探検に。


>>Mdina-2

 さて、いよいよ本番。まずは聖堂から。

 ジョセフさんが言うように、ヴァレッタの大聖堂と比べれば、本当にささやかな施設だとは思うけれど、それでもヴァレッタに遷都されるまでは、かつての都の象徴であった教会なわけで、やはりここは見ておくべき。

 教会の入場チケットはとなりの博物館の受付で購入。二館の共通券となっている。まずは、聖堂の内部へ。




 面積は、ヴァレッタ大聖堂の半分もないだろう。しかし、それでも中世の教会らしく、精一杯の思いで職人たちが捧げたアートが設えられている。床のタイルの下が墓所になっているのも、同じく。

 この日は地元の方々が正装して集まっていた。何か儀式が行われているようで、あまり邪魔になってもいけないので、一回りしたら博物館のほうへ向かうことにした。

 ガラス張りのエントランスが素敵な博物館は、とても静かでモダンなムード。ここは主に旧都時代の王家や貴族の家財、装飾品が展示してあるらしい。特に銀製品の種類が豊富で、高さ1mはあろうかという銀の大きな杯であったり、銀メッキの彫刻であったり、非常に華やかだ。

 中でも興味をそそられたのが、銀食器のコレクション。ヨーロッパでは、銀器や陶器は代々、先祖から譲り受けたものを磨いて使う土地柄だけに、古いものがきれいな状態で残っている。

 新品を買うと、カトラリーだけで数十万円もザラな装飾銀器だが、ドイツの友人いわく「蚤の市に行くと、欠品のあるセットなら、5万円くらいよ」とのこと。 機会があれば、そういう骨董を探して歩くのも、ヨーロッパらしい楽しみ方だろう。

 最後は、路地を探検し、ガラスや小物をしばし物色。このイムディーナは数十人しか人口がなく、それも元貴族や特権階級に限られているため、猥雑な人通りがなく「静寂の街」と言われている(ただし観光スポットには人が多い)

 写真は、一歩裏通りに入った路地の風景。ふとデジャヴを感じてしまうのは、きっと私だけではないはずだ。


>>Dinner at Mint
 そうこうしているうち、時間はもう4時。すっかりランチを食べ損なってしまったが、イムディーナでディナータイムまで待つのもどうかと思い、スリーマへ帰ることにした。

 マルタバスでヴァレッタまで戻り、ふたたび船に乗ってスリーマ港へ。土産物屋で小物入れやリキュールを買っていると、もう6時前になったので、ホテルに戻ってシャワーを浴び、着替えて外に出たらディナーの時間。

 今日はアメリカ人観光客に人気が高いというデリ・レストラン「Mint」に行ってみることにした。

 場所は海岸沿いをセント・ジュリアンの方へ向かって、道が4つに分かれるポイントの左手。オープンカフェみたいなテラスがあり、その奥の店舗にガラスのショーケース。中にはボリュームたっぷりの惣菜やパイ、デザートが並んでいる。いやはや、その大きさときたら!

 このラザニアのサイズを見て欲しい。優に豆腐2丁分はあるに違いない。ケースから出したのを、わざわざマイクロウェーブとオーブンで焼きなおしてくれる丁寧な仕事だが、軽く二人前。そしてどっさりサラダがついてくる(ポテトでなくて良かった)
 



 結局、食べられたのは半分強とサラダのみ。本当は名物のチョコレートブラウニーを食べたかったけれど、とても無理。ちなみに、お味は悪くなかった。日本人には少し薄味かもしれないが、ハーブが効いた上品なラグーで、焼き加減もナイス。数人で行く方々には、おすすめできる店だと思う。

 この後はホテルの地下にあるジャグジーに入って、明日の出発の準備。あっという間のマルタ滞在だった。明日の午前中はスーパーに行ってお土産を探さないと…。




















四日目 世界遺産の街へ(新都ヴァレッタ・前編)

>>Voyage a few minutes

 早いもので、マルタに着いてもう四日目。4泊5日とは言っても、到着日が夕方で出発日が昼過ぎに街を離れるので、実質的には中3日が旅のコア。四日目の今日は、一日をフルに使える最終日。本来なら多くの旅人が、まず真っ先に訪れるであろう首都「ヴァレッタ」、そしてヴァレッタに遷都される前に首都であった旧都「イムディーナ」、この二つを今日はじっくり回る予定だ。

 宿泊しているスリーマからヴァレッタまでは、マルタバスで行くのが一番安い(47セント)が、スリーマの港からは対岸のヴァレッタまで渡し舟(フェリー)が出ていて、数分間の海の旅が楽しめる。せっかく今日は天気もいいし、これを見逃す手はない。

 スリーマの港へ着くと、岸壁沿いに数十のブースが設けられ、それぞれ行き先の看板が掲げられている。陽気な客引きのアンちゃんをかわしつつ、中央よりヴァレッタに向かってやや右側、ビールのレーヴェンブロイのマークが船体に入った、ミントグリーンの小型船に乗り込む。料金は確か96セント。往復の本数も多く、海風を切って進む爽快感は最高だ。


  やがて、船の前方に世界遺産の街が見えてくる。尖塔の向こうに見えるドーム型の屋根が、テレビ番組でも時々取材されている大聖堂(カテドラル)。

 真っ青な空を背景に浮かび上がる、蜂蜜色のライムストーン建築群がぐんぐん迫ってくる様子は、かなりの感動&ど迫力。降りてから街へ入るまでが、ちょっと坂道を登る手間はあるけれど、この景色が手に入るなら、おつりが来るほど。ぜひ、皆さんがマルタを訪れた際は、一度は乗ってみていただきたい。


>>The world Heritage City
     
 フェリー発着所から緩やかな坂を登り、いよいよヴァレッタの街に足を踏み入れる。と、その瞬間、大げさではなく時が止まったかのような錯覚に陥った。いや、まさに時が止まっているのだ、この街は。目の前にあるのは、まぎれもなく中世のままの町並み。

 ここ数日、スリーマや他の場所でも多くのライムストーン建築を目にして、免疫ができているはずなのに、さすが街まるごと世界遺産。すぐそこに甲冑の騎士が現れても違和感がない。実際、ブラッド・ピット主演の「トロイ」をはじめ、様々な映画のロケがこの地で行われたという。

 しかし、ヴァレッタで困るのが坂の多さだ。この街には、観光名所が集結した「リパブリックストリート」という通りがあり、そこだけは平坦なので、バスでやってきて普通に見て回るぶんには不便はないが、私のようにへそ曲がりな人間が、裏通りを歩いて街へ入ろうとした場合、ちょっと骨が折れてしまう。しかしこれも、天然の地形のまま城砦の中で都市が構築された、マルタの歴史を映した姿なのである。
 
 坂を上っていくと、リパブリックストリートが見えてきた。このまま通りに入ってもいいのだけれど、せっかくなので街の入り口である、バス発着所「トリトンの泉」前から、散策を始めてみるべく少々遠回り。ここから城壁の内部につながる橋を渡って、市内へと入るのが、一般的なルートだ。

 左の写真が橋から下を見たところ。路駐天国のマルタらしく、駐車場がわりになっているが、これがかつての城壁。この堅牢な盾に守られ、市民は外国の敵から身を守ったのだ。

 いよいよゲートが見えてきた。この中がヴァレッタの城砦都市。さすがに、スリーマとは雰囲気が違い、特にこの日は平日の朝だったこともあり、たくさんの通勤者を見かけた。当たり前のことだけど、マルタにも会社があるのだ。ただし、企業従事者は極めて少なく、男性もネクタイをしている人は、ごく一部だ。

 
 ゲートの先は、いよいよリパブリックストリート。写真ではさびれているムードに見えているけれど、実際はけっこうな人通り。マルタ共和国で最も栄えている、国いちばんの繁華街だ。

 この通りの入り口には、なぜか屋台のパン屋さんがいっぱい。バス発着所に近い一等地だからだろうか。その中で、いちばん売り子のお兄さんが美形な屋台をパチリ。売り台いっぱいのマルタパンが、香ばしい匂いを放っていた。

 

>>National Museum of Archaelogy


 リパブリックストリートを進むと、やがて左手に「National Museum of Archaelogy(国立考古学博物館)」が見えてくる。とは言っても、大きなゲートや看板があるのではく、ビルの一階の小さなドアに、施設名を刻んだプレートが貼られているだけ。私はうっかり見落として、来た道をまた戻る羽目になった。

 ここに展示されているのは、遺跡から発掘された貴重な出土品。もちろん現地では遺跡そのものの姿が体感できるが、こちらはその中から特徴的なものをピックアップし、学術的な説明を行うことで、より理解を高めるようになっている。入館料は5ユーロ。小さな受付の向こうは、意外と広いワンフロアの展示室が広がっている。

 ここのセクションは、展示品の数に応じて撮影数も膨大な数になったので、ブロックごとに紹介。

 まず、右はこの博物館の顔とも言える「スリーピング レディ」。ガラス越しなのでピンが甘いのはご勘弁願うとして、お皿のような台の上に女性が横たわっているのがわかるだろうか。
 これは、地下遺跡「ハイポジウム」で発掘された貴重な出土品で、大きさは手に乗るくらい。古代人がどんな意味をこめてこれを彫ったのか…。逆にマグカップ型の鉢は、大人が入れるくらいの巨大なもの。その当時から、持ち手つきのカップがあったことに少し驚き。

 こちらは展示品の説明として添えられた資料。左上は発掘当時の様子。考古学の世界をあっと言わせる大発見だったのだ。

 模型は、右上がタルシーン、左下がジュガンティーヤ。どれもクローバーの葉のような丸みを帯びた形状の連鎖で出来ている。一説には女性の体を象ったとも。

 右下は石を積んだ祭壇の予測図。実に緻密に設計がなされている。計算機もない時代、いったいどんな知恵を人々は絞ったのか。なかなか興味深い展示物がひしめいている。


 こちらはタルシーン神殿でも目にした巨石関連。現地にも転がっていた丸い石、こうやって解説つきで改めて見てみると、なるほどと思わせる。実は日本でも大阪城の石垣などは、似たような原理を用いて運ばれており、昔の人々の建築(特に心の拠り所となるもの)に対するすさまじいパワーには圧倒される。もちろん、今よりずっと長い時間がかかったのだろうが。

 その下は、ふくよかな女性を象った像のバージョン違い数点。古代マルタといえば、ファットレディと巨石と刷り込んでおくことにする。それほど、これらの特徴ある遺跡群の印象は深い。

 そして、左が今回の旅で唯一の心残り。予約が取れなかった「ハイポジウム」の洞内だ。

 ハイポジウムは、首尾よく中を見学できたとしても、撮影は一切許可されていない。なので、一般に公開されている内部は、これらの政府公認資料のみとなる。
 模型を見る限り、その内部は複雑に構成されており、まさに迷宮という名がふさわしい。ここへ潜入してきたという幸運なイタリア人マダムによると、「インディアナジョーンズの世界よ、マンマミア!」なのだそうだ。ピラミッド同様、とにかく現実離れしたミステリアスな空間であることには間違いないだろう。
 マルタを訪れる際は、日程が決まれば即予約することをおすすめしたい。


>>St. john's Co Cathedral

 博物館を出た足で、すぐ斜め前にある「カテドラル=大聖堂」へ。ここは、いわばヴァレッタの顔といってもいい建造物で、旅番組のレポーターが必ず訪れるような、マルタでは世界的にもっとも有名な施設と言える。

 ここもやはりライムストーンで出来た建物で、テレビでは立派な旧正面玄関が紹介されるが、実際の入り口はリパブリック通りに面した所にある(写真下)。肌の露出の多い人は布を手渡され、神様に失礼のないように身支度を求められる。日本の神社仏閣もそうだけれど、敬虔な宗教施設には、常識ある服装で訪れたいものだ。








  
 さて、いよいよ中へ。各国語の音声ガイド(残念ながら日本語はナシ)を貸してくれるので、予備知識なしでも詳しい大聖堂の歴史が把握できる。入場料は7ユーロだったか8ユーロだったか失念したが、その値打ちは十分にあったと言っておこう。

 何しろ、入るや否やカラヴァッジオのお出迎えがあるのだ。日本では有名でないかもしれないが、美大出身の私には「カラヴァッジオ様」なのである。入り口を入って左側の礼拝室、アーチの上にあるのが「執筆する聖ヒエロニムス」(1607年 油彩・カンヴァス 117×157cm)。

 ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジオは狂気と才能が混在する、不世出の画家である。イタリアで生まれ、高くその画力を評価されたが、生まれつきの激しい気性により殺人を犯し、ナポリ、マルタ、シチリアへと流れながら創作活動を続けた。酒場で剣を振り回すその凶暴な腕が、いったん筆を持つとこんな繊細な絵を生み出すとは。いやはや芸術家とは、凡人にはわからない生き物だ。

 大聖堂には、カラヴァッジオ以外にも芸術品が多々ある。いや、むしろアートで埋め尽くされていると言っても過言ではない。絢爛豪華という言葉がぴったりと来る、天井や壁面の装飾に、一瞬自分がどこにいるのかさえわからなくなる。そんな圧倒される、重厚な宗教芸術に身を包まれるひとときだ。













 ひとつ注目したいのが、床のタイル。手描きの一枚もののタイルというだけでも、芸術的な価値が高いが、実はこれすべてお墓。このタイルの下に墓所が設えてあるのだ。日本人の感覚では、無礼極まりなく思ってしまう光景だが、西欧では通常のことらしい。

 しかし、床も柄、天井も柄、壁も扉も柄の空間が、なぜにこのようは不思議な統一感を持って静寂を人々の心に与えるのか。狙って作った現代風の建築では、胡散臭く安っぽくなるだけなのに。


>>Cafe Cordina

  さて、ここでちょっと休憩。大聖堂の隣にある「Cafe Cordina(カフェ コルディナ)」で、名物のカプチーノをいただくことにする。

 このコルディナは、正確に言えば大聖堂の斜め前に本店の店舗があり、リパブリック通りに面して物販コーナー、店中ではお茶や軽食を楽しむことができる。

 今回、私が陣取ったのは、道を挟んで反対側にある広場のテーブル。ここでは数件の店が席を持っているが、コルディナが大半を占めているようだ。何しろマルタ国内で最も歴史が古く、イタリアの大統領も来訪の際は、必ずここでカプチーノを飲むというほどの有名な店らしい。

 オーダーして5分ほどで出てきたカプチーノは、日本で流行しているアートはなく、ごくシンプル。お味は非常に濃厚で、どこかカカオやナッツを思わせる甘いフレーバーが後から来る感じだ。

 この店はコーヒーの他にお菓子でも有名で、空港などでもギフト用の焼き菓子やチョコレートが売られている。パッケージも他の店に比べてセンスがいい(というより他がひどい)ので、お土産にいくつか買って帰ったが、非常に好評だった。

後編へつづく



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